学会名 第20回全国老人保健施設大会
会 場 朱鷺メッセ 新潟コンベンションセンター
開催地 新潟県新潟市

【はじめに】
 老健では、廃用症候群などの予防のため、入所利用者に日中の離床を促し、椅子や車いすに座って過ごしていただいている。高齢者では、筋ポンプ作用の低下、組織圧の低下、下肢静脈弁機能の低下などにより下肢の浮腫が起こりやすく、浮腫は皮膚の裂傷や炎症を起こし、痛みや可動域制限、筋力低下などを招き、身体能力や活動性を低下させる可能性がある。
 今回私達は、下腿の浮腫を呈する入所者利用者に弾性ストッキング(以下elastic stockingsES)を装着して、浮腫に対する効果や日常生活あるいは介護負担等に対する影響を検証した。

【対象者】
 対象者は当施設入所中の女性3 名(93±5 歳)で、うっ血や炎症の所見のない麻痺性・不動性の浮腫があること、特に心・肝・腎機能の異常がなく局所性の下腿の浮腫が認められること、浮腫の程度は+3(全体に腫脹があり、圧迫で深いくぼみができる)以上であることを条件とした。なお、本研究は、主旨を本人と家族に説明し同意を得た上で行った。

【方法】
 ES(アルケア社製アンシルクプロJ、サイズは下腿最小周径に従い適合、圧迫圧は一般的に高齢者の浮腫の予防として用いられる20mmHg 以下とする)は起床時から就寝時まで装着し、週1 回の評価日(リハビリテーションと入浴日以外)には装着しなかった。「非装着−装着−非装着―装着―非装着」を繰り返し、装着期間は1 ヵ月間〜2 ヵ月間とした。また、浮腫の程度が+2(正常の外観、圧迫で深いくぼみができる)となった時点で装着を終了した。
 周径(下腿最大、下腿最小、足部近位)と、浮腫の程度(下腿、外果、足背)を評価項目とした。また、介護職員は対象者の日常生活を観察した内容をフィールドメモとして記録した。

【結果】
 ES を装着した結果、2 名の対象者で、下腿最小周径は装着時とその後の経過において減少傾向がみられ、装着による長期的な効果がうかがわれた。しかしながら、残り1 名では、周径の大きな変化は認められなかった。
 浮腫の程度は、周径の減少がみられた
2 名では装着時に低下した。残り1 名では、装着時に一時的な浮腫の低下が見られたものの全期間を通して明らかな変化はなかった。
 介護職員のフィールドメモから、「臥床時に足が上げやすくなった」「足の腫れがひき動きやすい」「本人も足が細くなったと喜んでいる」などの情報が得られた。また装着前と比べて装着後には、「外傷が減った」「歩行が楽に行えているようだ」「活動的となり、浮腫のために見られた不穏なども減った」など日常生活面での改善もみられた。

【考察】
 下腿の浮腫を呈した3 名に対して、ES 装着の効果を検証した。その結果、3 名中2 名で下腿周径の減少がみられ、日常生活面の改善がみられた。ES の効果が得られた2 名は、日中の活動性が比較的高く、下肢筋力も維持されていた。他方、十分な効果が得られなかった1 名は、2 名と比較すると、活動性が低かったと思われた。このことから、下肢の運動量や筋力がES の効果に影響し、単にES の装着だけでなく、運動による下肢の筋活動を促すことも下腿浮腫に対する効果を高め、さらに日常生活を向上させる可能性があると考えられた。
 今後は、症例数を増やして、運動量と浮腫軽減との関連性についても検証していきたい。

図1 右+左下腿最小周径の推移

図2 浮腫の程度(平均)の推移